「朝起きた時に、顎が疲れていると感じる」「原因は分からないけれど、長年頭痛や肩こりに悩まされている」「食事の時に、口を開けると顎の関節がカクカクと鳴る」
一見すると歯とは直接関係がないように思える、これらの身体の不調。
しかし、その根本的な原因をたどっていくと実は「歯の噛み合わせのズレ」に行き着くケースが、決して少なくないということをご存知でしょうか。

噛み合わせは、単に食べ物を咀嚼するためだけの機能ではありません。上下の歯が正しく接触することで、私たちは顎の位置を安定させ、頭の重さを支え、全身のバランスを保っています。いわばお口は身体全体の健康を支える「土台」であり、噛み合わせはその土台の要となる極めて重要な要素なのです。

当院では、これまで数多くの患者様のお口を拝見する中でこの噛み合わせの重要性を、常に痛感してまいりました。一本の歯の治療を行う際にも、必ずお口全体の噛み合わせのバランスを考慮に入れること。そして、もしそのバランスが崩れている場合には機能的で身体に調和した、安定した噛み合わせを再構築すること。
それこそが皆様が長期的に健康な生活を送る上で、歯科医師が果たすべき大切な役割の一つであると確信しております。

このページでは皆様ご自身の健康を見つめ直すきっかけとして、噛み合わせの世界の奥深さと当院が行う顎関節症を含めた治療への考え方について、詳しくお話しさせていただきます。

良い噛み合わせ

私たちは普段あまり意識することなく、食事をしたり会話をしたりしています。しかし、その背後では歯と顎の関節、そして筋肉が極めて精巧に連携し合うことで、これらの複雑な動きが成り立っています。「良い噛み合わせ」とは、これら三つの要素が互いに負担をかけることなく、スムーズに調和して機能している状態を指します。

良い噛み合わせ|古屋歯科

良い噛み合わせの主な条件

  • 上下の歯が、臼歯部(奥歯)で均等にしっかりと噛み合っている。
  • 顎を左右に動かした時に、犬歯(糸切り歯)が正しく誘導し奥歯が不必要に接触しない。
  • 顎を前に突き出した時に、前歯が接触し奥歯が離れる。
  • 顎の関節がリラックスした正しい位置にある時に、歯が安定して噛み合っている。
  • 口を閉じた時に、唇が自然に閉じ顔の筋肉に不自然な緊張がない。

これらの条件が満たされていると、食べ物を効率良く噛み砕けるだけでなく特定の歯や顎の関節に過度な力がかかるのを防ぎ、お口全体のシステムが長期的に安定して機能し続けることができます。

崩れた噛み合わせが心身に及ぼす様々な影響

一方でこの繊細なバランスが崩れてしまった「悪い噛み合わせ(咬合異常)」の状態を放置すると、お口の中だけでなくやがては全身にまで様々な不具合となって現れてきます。

お口の中に現れる問題

お口の中に現れる問題|古屋歯科

歯の破折や摩耗

特定の歯にだけ強い力が集中することで、歯が欠けたりひびが入ったり、異常にすり減ってしまったりする原因となります。
詰め物や被せ物が頻繁に外れたり壊れたりする方も、噛み合わせのバランスが悪い可能性があります。

虫歯・歯周病の悪化

噛み合わせの力が歯を支える骨に対してダメージを与え、歯周病の進行を早めてしまうことがあります。また、歯並びの悪さを伴う噛み合わせの異常は清掃不良を招き、虫歯のリスクを高めます。

知覚過敏

過度な噛み合わせの力が歯の根元にダメージを与え、歯ぐきが下がる「歯肉退縮」を引き起こします。
これにより歯の根が露出し、冷たいものや歯ブラシの刺激で歯がしみる知覚過敏の症状が現れることがあります。

全身に現れる問題

全身に現れる問題|古屋歯科

顎関節症(がくかんせつしょう)

悪い噛み合わせが引き起こす、代表的な全身症状が顎関節症です。顎の関節やその周りの筋肉(咀嚼筋)に過度な負担がかかり続けることで、様々な症状を引き起こします。
これについては、後の項目で詳しくご説明いたします。

頭痛・肩こり・首のこり

噛み合わせが悪いと、顎周りの筋肉は常に不自然な緊張を強いられます。この緊張は頭部や首、肩といった隣接する筋肉へと連鎖的に伝わっていきます。

これがマッサージなどを受けてもなかなか改善しない、慢性的な頭痛や肩こりの隠れた原因となっているケースは少なくありません。

めまい・耳鳴り

顎の関節は、耳のすぐ近くに位置しています。そのため顎関節の位置にズレが生じると、内耳にある平衡感覚を司る器官に影響を及ぼしめまいや耳鳴りの一因となることがあります。

全身の歪み

噛み合わせのズレは頭の位置のズレにつながり、そのバランスを取ろうとして身体全体に歪みが生じることがあります。姿勢が悪くなったり、原因不明の腰痛に繋がったりする可能性も指摘されています。

このようにたった数十ミクロンの歯の接触のズレが、ドミノ倒しのように全身へと影響を及ぼしていくのです。

古屋歯科医院の噛み合わせ・顎関節症治療


私たちが目指すのは「お口全体の調和」です|古屋歯科

私たちが目指すのは「お口全体の調和」です

当院の噛み合わせ治療は、痛みのある部分だけを対症療法的に治すことを目的とはしていません。なぜ噛み合わせのバランスが崩れてしまったのか。なぜ顎関節に症状が現れたのか。
その「根本的な原因」を、患者様一人ひとりのお口の状態や生活習慣、そして時には精神的な背景までを考慮に入れながら多角的に探求していくことから始まります。

一本の歯は、それ単独で機能しているわけではありません。28本すべての歯が顎の関節や筋肉と連携し、一つの「咬合」というシステムを形成しています。
私たちは常にこのシステム全体を見渡し、部分的な問題ではなくお口全体の健康と機能が長期的に安定して維持される状態へと導くことを、治療の目標としております。

すべては「精密な診断」から

原因を特定するためには、現状を正確に把握することが不可欠です。当院では次のような検査を組み合わせて、噛み合わせの状態を詳細に分析します。

検査項目内容
問診現在の症状、過去の歯科治療歴、生活習慣、癖の有無などを詳しくお伺いします。
視診・触診お口の中の歯の状態、歯の摩耗度、顎の動き、筋肉の緊張度などを直接確認します。
レントゲン検査歯や顎の骨に異常がないかを検査します。
咬合紙による検査色のついた薄い紙を噛んでいただき、どこが強く当たっているか、どこが当たっていないかといった歯の接触状態を調べます。
歯型の模型による診断お口の型取りを行い、作製した石膏模型を「咬合器」という顎の動きを再現する装置に取り付けて噛み合わせの状態や顎の動きを、客観的に分析します。

身体への負担を最小限に。「保守的なアプローチ」の徹底

噛み合わせの治療と聞くと「歯をたくさん削られるのではないか」とご不安に思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、当院の考え方はその正反対です。私たちは「可能な限り健康な歯を削らない」ことを、治療の基本原則としています。

安易に歯を削って高さを調整する方法は、一見手っ取り早い解決策のように思えるかもしれません。しかし、一度削ってしまった歯質は二度と元には戻りません。

もしその診断が間違っていた場合、取り返しのつかない事態を招いてしまうことになります。
ですから私たちの治療の第一選択肢は、常に「可逆的(かぎゃくてき)」つまり元の状態に戻すことのできる、身体への負担が少ない方法から始めることです。

主な治療方法

患者様のお口の状態や症状の原因に応じて、いくつかの治療法を単独であるいは組み合わせて行います。

スプリント療法(マウスピースによる治療)

スプリント療法|古屋歯科

顎関節症の治療や歯ぎしり・食いしばりの症状緩和において、基本的で効果的な治療法がこのスプリント療法です。「スプリント(オクルーザルスプリント)」とは、患者様の歯型に合わせて作製する取り外し式のマウスピース型の装置です。
主に夜間の睡眠中に装着していただくことで、様々な効果を発揮します。

スプリントの主な役割
役割説明
顎の関節を安静な位置に導くスプリントを装着することで上下の歯が直接接触しなくなり、下顎がリラックスした本来あるべき正しい位置へと導かれます。これにより、顎関節にかかる負担が軽減されます。
筋肉の緊張を和らげる噛み合わせの異常によって生じていた、顎周りの筋肉の不自然な緊張が緩和され筋肉痛などの症状が改善します。
歯ぎしり・食いしばりから歯を守る睡眠中の強力な歯ぎしりの力から、歯がすり減ったり欠けたりするのを防ぐプロテクターの役割を果たします。
噛み合わせの診断ツールとしての役割スプリントを一定期間使用していただくことで、症状がどのように変化するかを観察し噛み合わせのズレが症状の根本原因であるかを診断するための一助とします。

スプリントは歯を削ったり動かしたりすることなく、顎関節や筋肉の症状を改善できる非常に優れた保守的な治療法です。

咬合調整(噛み合わせの微調整)

メンテナンス|古屋歯科

スプリント療法などによって、顎関節や筋肉の状態が安定した後それでもなお特定の歯が強く当たりすぎているなど、明らかな噛み合わせの不調和が残っている場合にごくわずかに歯の表面を削って調整を行うことがあります。これは髪の毛一本分の厚みを調整するような、極めて繊細な処置です。

不必要な部分を削りすぎないよう、咬合紙を使いながら慎重に最小限の範囲で行います。あくまで他の治療法で改善が見られた後の、仕上げとして限定的に行う処置とご理解ください。

補綴治療(詰め物・被せ物のやり直し)

セラミック|古屋歯科

古い詰め物や被せ物の高さが合っていなかったり、摩耗してしまったりしていることが噛み合わせの不調の原因であると明確に診断された場合には、それらを適切な高さと形態のものに作り直す治療を行います。

矯正治療

インビザライン|古屋歯科

歯並びそのものが、噛み合わせの異常の根本原因である場合には矯正治療によって歯を正しい位置へと動かし、理想的な噛み合わせを再構築することが効果的な解決策となります。

当院では矯正歯科を専門とする認定医と連携し、機能的にも審美的にも優れた長期的に安定する歯並びを目指します。

生活習慣の指導とセルフケア

生活習慣に関する指導|古屋歯科

噛み合わせの問題は、歯科医院での治療だけですべてが解決するわけではありません。むしろ患者様ご自身の日常生活の中に潜む、無意識の癖を改善していくことが症状の改善と再発防止のために、非常に重要となります。

当院では以下のような指導を行います。

  • TCH(歯列接触癖)に気づき、それを意識的にやめるためのトレーニング
  • 頬杖やうつ伏せ寝といった、顎に負担をかける癖の改善指導
  • 顎周りの筋肉の緊張を和らげるための、ストレッチやマッサージの指導

など患者様ご自身に取り組んでいただけるセルフケアの方法についても、丁寧にお伝えします。

健やかな笑顔を取り戻すために

噛み合わせの治療は時として、原因を探る長い旅のようになることもあります。
しかし、その旅の先には長年のお悩みから解放され、心身ともに健康で快適な毎日が待っています。

原因不明の体調不良でお悩みの方、ご自身の噛み合わせに少しでも疑問を感じる方はどうぞ諦めずに、一度私たちにご相談ください。

皆様が健やかな笑顔を取り戻すための一歩を、私たちが全力でサポートいたします。